Research Results 研究成果
ポイント
概要
重症感染症では、全身の臓器機能が障害される「MODS」を伴い、“敗血症”と呼ばれる重篤な病態に至ります。敗血症の致死率は30%以上とされ、日本国内では年間約81,000人が亡くなっていると推定されています。これまで、敗血症における臓器障害は「細胞障害性低酸素(cytopathic hypoxia)」とされる概念的な現象によって説明されてきましたが、その詳細な仕組みは明らかではありませんでした。
本研究により、MODSの代表的な臓器障害である敗血症性心筋症において、菌体成分に対する生体の過剰な免疫応答によって増加した低酸素応答因子(hypoxia-inducible factor-1, HIF-1α)が、cytopathic hypoxiaおよびMODSの核心的な分子メカニズムであることを明らかにしました。
九州大学病院別府病院内科の池田昌隆助教、および医学系学府博士課程の渡邊雅嗣氏(現?九州大学病院麻酔科蘇生科助教)らの研究グループは、低酸素環境に順応するために細胞を“省エネモード”に移行させる転写因子HIF-1αが、菌体成分に対する生体の過応答により低酸素環境とは無関係に誘導され、実際には酸素が充足する環境にも関わらず、酸素利用ができない状態(cytopathic hypoxia)が引き起こされ、敗血症性心筋症の発症につながることを示しました。
さらに、HIF-1αがcytopathic hypoxiaを引き起こす仕組み、ならびに菌体成分に応答してHIF-1αが増加する仕組みを解明することで、敗血症性心筋症、ひいてはMODSに対する複数の新たな治療標的を突き止めることに成功し、新規治療法の開発に向けた研究基盤を構築しました。
颁翱痴滨顿-19パンデミックでも明らかとなったように、感染症は依然として人类にとっての深刻な胁威です。その致死性の根干である败血症、すなわち惭翱顿厂の克服は人类の健康?福祉にとっての最重要课题の一つです。本研究成果を基盘とした新たな治疗法の开発により、败血症の克服と重症感染症からの転帰の改善が期待されます。
本研究成果は英国の科学誌「Nature Cardiovascular Research」に2025年8月19日(火)午後6時(日本時間)に掲載されました。
図1 重篤な感染症により生じるcytopathic hypoxiaの分子機序とHIF-1αの役割
用语解説
(※1) 敗血症
感染に対する调节不全の宿主応答によって引き起こされる、生命を胁かす臓器障害を伴った状态。
(※2) 多臓器不全症候群(Multiple Organ Dysfunction Syndrome, MODS)
重症伤病を契机として生じる、制御不能な炎症反応(过剰なサイトカイン产生)により、2つ以上の臓器、または生体机能系に进行性の机能障害が生じる状态。
(※3) 細胞障害性低酸素(cytopathic hypoxia)
细胞は主にミトコンドリアにおいて酸素を利用してエネルギーを生成するが、酸素が十分に存在しているにもかかわらず、细胞(あるいはミトコンドリア)が酸素を利用できず、エネルギー不足による细胞机能不全に陥る状态を指す概念的な现象。
対照的な概念として、低酸素性低酸素(hypoxic hypoxia)がある。
(※4) 低酸素誘導因子(hypoxia-inducible factor-1α, HIF-1α)
低酸素環境下で増加し、細胞が低酸素に順応するための応答(低酸素応答)を担う転写因子。酸素が十分に存在する環境では、酸素依存的な水酸化修飾を受けて速やかに分解されるが、低酸素環境下では水酸化修飾が起こらず、分解されずに細胞内に蓄積する。HIF-1αの発見およびその生体内での機能解析に貢献したGregg L. Semenza, William G. Kaelin Jr., Peter J. Ratcliffeの3氏は、2019年にノーベル生理学?医学賞を受賞している。
论文情报
掲載誌:Nature Cardiovascular Research
タイトル:Excessive HIF-1α Driven by Phospholipid Metabolism Causes Septic Cardiomyopathy through Cytopathic Hypoxia
著者名:Masatsugu Watanabe, Masataka Ikeda*, Ko Abe, Shun Furusawa, Kosei Ishimaru, Takuya Kanamura, Satoshi Fujita, Hiroko Deguchi Miyamoto, Eisho Kozakura, Yoko Shojima Isayama, Yuki Ikeda, Takashi Kai, Toru Hashimoto, Shouji Matsushima, Tomomi Ide, Ken-ichi Yamada, Hiroyuki Tsutsui, Ken Yamaura, Kohtaro Abe
*责任着者
顿翱滨:
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