Research Results 研究成果
放射線治療と抗がん剤投与を同時に行う化学放射線療法は食道がんの有効な治療法のひとつですが、治療後に再発することがあります。がんゲノム(がん細胞のDNAに含まれる遺伝情報)異常が治療抵抗性(※1)の一因と考えられていますが、その詳細は解明されていません。九州大学の三森功士 教授、石神康生 教授、平川雅和 准教授、平田秀成 医員(現?国立がん研究センター東病院)、東京大学医科学研究所ゲノム医科学分野の柴田龍弘 教授(国立がん研究センター兼務)、新井田厚司 講師、国立がん研究センター東病院の秋元哲夫 副院長らの研究グループは、化学放射線療法の効果が低く再発しやすい難治性食道がんのゲノム異常の特徴や、再発に至るがんゲノムの進化(※2)の過程を明らかにしました。
食道がん患者33名より化学放射线疗法前に得た肿疡と、このうち5名の再発肿疡から次世代シークエンサー(※3)を用いた包括的ゲノムデータを取得し、スーパーコンピュータを用いた数理统计解析を行いました。その结果、治疗前に惭驰颁遗伝子のコピー数(※4)が増加している食道がんでは治疗効果が低いことがわかりました。公共のがん细胞株データベースにおいても、食道がんの惭驰颁コピー数増加は放射线治疗抵抗性と相関していました。さらに再発肿疡のゲノムを时空间解析した结果、がんの进展に重要な役割を果たすドライバー遗伝子异常(惭驰颁コピー数増加など)を持つがん细胞は治疗后も生き残り再発の源になること、再発时に新たに获得するドライバー遗伝子异常は少数であること、がんゲノムの进化に治疗が与える影响も明らかとなりました。
今回の成果は治疗抵抗性の理解を深め、がんゲノム情报に基づく化学放射线疗法の个别化医疗?精密医疗の开発や、难治性食道がんの新たな治疗开発につながると期待されます。
本研究成果は、2021年8月20日午前10時(日本時間)に米国科学雑誌「Cancer Research」で公開されました。
(参考図)化学放射线疗法后に再発する难治性食道がんのゲノム进化
左図:がんは単一の细胞に由来する疾患ですが、进行とともにゲノムの多様性が増加し、不均一な细胞集団となります。このような不均一性を生むがんゲノムの进化は、治疗抵抗性の一因とされます。治疗后に一旦缩小しても、ドライバー遗伝子异常を持つ细胞が生き残り、再び増殖し、やがて再発します。
右図:ドライバー遗伝子异常のうち、惭驰颁遗伝子のコピー数が増加している食道がんは、化学放射线疗法后に再発?増悪しやすく、治疗后の生存率が低いことが明らかになりました。
用语解説
(※1)治疗抵抗性
がんに対する放射线治疗や抗がん剤治疗が无効であったり、効果が低下したりする状态。治疗が最初から効かない场合や、初めは有効でがんが见つからないほど缩小した后に効かなくなる场合もあります。
(※2)がんゲノムの进化
がんは単一の細胞に由来する疾患であり、進展する時間的変化の中で様々なゲノム異常を蓄積しながら空間的な多様性を獲得し、不均一な細胞集団となります。がんの不均一性が形成される過程で、周囲の環境に適合し増殖?生存に有利なゲノム異常を持つがん細胞が選択されたり(自然選択を受けるダーウィン進化)、がん細胞の増殖?生存に影響を与えないゲノム異常が蓄積したりします(中立進化)。このようながんの不均一性を生む「がんゲノムの進化」は、治療抵抗性を生む一因と考えられています。詳細は九州大学 2018年7月24日プレスリリース「大腸がんの腫瘍内多様性の獲得原理を説明する新たな進化モデルを構築」をご参照ください。Saito et al. Nature Communications 2018. doi:10.1038/s41467-018-05226-0.
(※3)次世代シークエンサー
顿狈础の塩基配列を短期间で大量に解読する装置であり、生命科学に革新をもたらしました。本研究では食道がんゲノムのうち、机能的に重要なエクソン领域の塩基配列を包括的に解読することにより、がん细胞特有の遗伝子変异(顿狈础塩基配列の置换?挿入?欠失)やコピー数异常を调べました。
(※4)コピー数异常
私たちの体を形作る细胞の顿狈础が折り畳まれ格纳されている染色体は、父亲由来1本?母亲由来1本の合计2本ずつ(2コピー)あります。がん细胞では、染色体の特定の领域が3コピー以上に増加したり、抜けて落ちて0~1コピーに减少したりすることがあり、コピー数异常と呼ばれます。がん细胞の増殖や生存に直接的な役割を担うドライバー遗伝子である惭驰颁遗伝子を含む领域は、食道がんをはじめ多くのがんでコピー数が増加することが知られています。