About 九州大学について
本日、九州大学の修士、専门职、博士の学位を授与され、卒业される皆さん、卒业おめでとうございます。修士课程1751名、専门职学位课程130名、博士课程333名の计2214名にそれぞれの学位が授与されました。またこの间、皆さんの学びを支え励ましてくださったご家族、友人、関係者の方々にも九州大学の教职员を代表して心からお祝い申し上げます。
今年は新型コロナウイルス感染症の感染防止対策のため、保护者の皆さんの出席はかなわない状况で式を行うことを残念に感じていますが、ライブ配信で式をご覧の方々と共に、皆さんの卒业をお祝したく思います。
皆さんの大学院での学び、研究は充実していましたか。大学での学びとは、初めて自分自身で自分の学びを选択し、自分で选んだ学问を専门的に、研究的に究め、やり遂げて、体系的な知识にするというものだと考えます。学部段阶までは18歳人口の半数以上が大学に进学するという潮流の中で进学を决める人も多いのではないかと思いますが、大学院への进学は违います。皆さんが学问への探究に魅せられ、また自分の成长のために、自分の人生のなかで「学び」に集中する期间を更に设定するという选択をされたということです。皆さんは、大学院での研究生活の中で学问を深め、新しい考えを导き出し、论文を仕上げられました。「知」と深く向き合う月日を経て、本日を迎えられたことと思います。今どんな気持ちで学位记を手にしておられますか。
皆さんが大学生活を过ごした2010年代后半、人类は国境なく世界中を飞び回り、便利で効率的な世界が広がる半面、多くの社会的问题が顕在化してきた时代だと思います。そして、2020年の新型コロナウイルス感染症の世界的流行はそれに追い打ちをかけました。私たちは行动変容を迫られ、今まで何の迷いもなく生活していたことが出来なくなってしまいました。社会生活はもちろんのこと、皆さんの日々の学生生活もすっかり変わり、落ち着かない一年であったことと思います。大学に行かないと研究できない、そんな不自由もあったと思います。大変な1年でしたが、この最后の1年を多くの制约の中でやり遂げ、本日、无事学位记を手にすることができたことを夸りに思って下さい。九州大学で学び培った学问とその専门性は、これからの皆さんのかけがえのない财产になり、人生を切り拓く键となります。これから新しい社会环境、生活环境の中で始める次の活跃の场で、自分が学んだことを确実に活かし、社会に役立てて下さい。
想像もしなかった新型コロナウイルス感染症の世界的流行が起こった时、过去の感染症の歴史の中で、约100年前、1918年から1920年まで世界中に猛威を振るった「スペイン风邪」のことも话题になりました。その时の状况を知ることが出来る兴味ある事例と记録が、ここ九州大学にもありました。それは第一内科初代教授、稲田龙吉先生の「『インフルエンザ』の临床的事项」という论説に记述されていました。この论説は1920年に日本内科学会総会で発表された宿题报告で、当时の汉字とカタカナ交じりの文章は、さながら外国语を読むようですが、50ページを超える贵重なレポートです。第一内科ではこれを现代文に书き直し、すぐに同门会报に载せられました。当时の世界人口の30%に当たる约5亿人が感染し、3000万人から4000万人が死亡したと推定されるいわゆる「スペイン风邪」の日本における研究记録はあまり残っておらず、この论説は极めて重要性の高い研究と思われます。现在のような卫生管理の概念もなく、ましてや设备や装备もない中、素手でインフルエンザと向き合われた稲田教授とその研究室の话は想像を超えるものがあります。世界的に见ても、まだウイルスが発见されていない时代に、人々は详细にその症状を観察し、悬命に治疗方法を模索し、ワクチンまで作ったようです。人类はこのように未知なもの、不确定なものに対して果敢に挑み、何らかの解决策を见出そうとしてきました。オックスフォード大学の苅谷刚彦先生はその着书の中で、この100年前のパンデミックと现在の新型コロナウイルス感染症のパンデミックでの対応を比较し、「「无知の知」あるいは「不知の知」はソクラテス以来、知に対する哲学の基本であるが、100年前も今回も、知らないということ、わからないということの影响とその意味を、これほどまでに思い知らされた経験はないだろう」と述べ、更に「巨大な无知の知に直面していることを知りつつ、それでも出来るだけ信頼できる知识を集め、それらを比较考量し、直面する未知?不可知に立ち向かっていく。そのような知的で冷静な判断が、徐々にだが新たな経験知や科学的知识の生产?进化に贡献していく。そして、そのためには、「无知の知」が教える、知や知の生产への谦虚さを取り戻すことが重要となる」と书いておられます。人类には「わからないこと」がまだまだたくさんあります。今回の新型コロナウイルス感染症がよい例です。悬命な研究でワクチンが生み出され、日本でも接种が始まりましたが、変异株が猛威を振るうのではないかという悬念が高まっています。しかし、これに挑み、感染症と、それが人间社会に及ぼす大きな影响を抑えようという努力は、自然科学はもとより社会科学や人文科学の世界で日々続けられています。これは先人たちが「无知の知」を谦虚に受け止め、その前で何ができるかを悬命に考え、一つの解にたどり着く、この繰り返しにほかなりません。皆さんは、知の探究の方法を身につけられました。この繰り返しの歴史に加わって、今の「最适解」にたどり着く、この努力を共に続けていく仲间だと思っています。
九州大学は1911年に开校して以来、福冈の地にあります。多くの学生が数年间を経て入れ替わり立ち代わり入学し卒业していきます。多くの教职员が入ってきて、また去ります。そして皆さんもその一人です。皆さんが九州大学で学んだということは、稲田教室の奋闘と同じく九州大学の歴史となっていくのです。九州大学で学んだことを忘れないで下さい。それは、もちろん学んだ専门的な知识のことを忘れないでほしいということでもありますが、皆さんが大学に在籍したこと自体が九州大学の歴史になっていく、一人一人が九州大学の歴史そのものなのです。卒业后、皆さんが折に触れ、大学を访ねてくださることを歓迎します。九州大学での学びや活动が皆さんの心の拠り所になることを愿っています。
最后に、今日卒业される皆さんがこの大変な时代に、希望を失わず諦めないで、新しい社会の信頼できる担い手としての一歩を踏み出されることを心から応援しています。そして共に、福冈、九州、日本、アジア、そして世界の「知」、すなわち「英知」をより豊かにする、たゆまぬ歩みを进めて行きましょう。
健闘を祈ります。
2021年3月24日
九州大学総长
石桥达朗